理学療法士として新たなキャリアを歩もうとするとき、避けては通れないのが「志望動機」の作成です。多くの応募書類に目を通す採用担当者の心に響き、数ある候補者の中から

この人に会いたい!
と思わせるには、単なる熱意のアピールだけでは不十分です。
この記事では、よくある平凡な志望動機から脱却し、あなたの価値とポテンシャルを最大限に伝えるための「戦略的」な志望動機の作り方を、具体的なフレームワークや例文とともに徹底解説します。
採用担当者の視点を理解し、準備から書き方、ケース別の応用までをマスターすることで、あなたの転職活動を成功へと導きます。
- 採用担当者に響くポイント
- 説得力ある志望動機の構成
- 状況別の志望動機の書き方
採用担当者の本音を知る!理学療法士が志望動機で評価される3つのポイント


採用担当者は、志望動機を通してあなたという人材への「投資」が、職場にとって有益であるかを判断しています。
担当者が抱く3つの核心的な疑問に、あなたの志望動機は明確に答えられているでしょうか。これらのポイントを理解することが、魅力的な志望動機作成の第一歩です。
「長く働いてくれるか?」定着性への熱意
採用担当者がまず見ているのは、あなたの「定着性」です。採用活動には大きな時間と費用がかかるため、内定辞退や早期離職は病院にとって大きな損失となります。
採用したのはいいけど1年でやめちゃった…となるのは病院としては避けたいと思っています。
そのため、応募先の理念や事業内容を深く理解し、「この職場で長く貢献したい」という強い意志を示すことが重要。
どの職場にも当てはまるような汎用的な志望動機では、本気度が伝わりません。
「なぜこの病院でなければならないのか?」という問いに、具体的な根拠をもって答えることで、あなたの熱意と志望度の高さが伝わり、採用担当者に安心感を与えることができるのです。
「本当に活躍できるか?」スキルと経験のマッチ度
次に問われるのは、あなたのスキルや経験が、応募先の求める役割やニーズと合致しているか、すなわち「活躍可能性」です。
どれほど優れた経歴を持っていても、その能力が病院の求める方向性とずれていれば、入社後の活躍は期待できません。
前に学生の就職支援をしていた時に、ATも同時に取得を目指している学生がいて、就活ではそのことを中心をアピールしていました。非常に優秀な学生で人柄も問題なく、受かると思われていたのですが結果は不合格。
その学生が就職希望していたのは総合病院で、ATの取得が認めることが特にアドバンテージになるわけではなく、求められた能力とのミスマッチが生じていたようです。
このように大切なのは、これまでの経験で培った知識や技術を、応募先でどのように活かし、具体的な成果に繋げられるのかを論理的に示すことです。自身の強みが、病院の課題解決や目標達成にどう貢献できるのか、採用担当者が明確にイメージできるようなアピールを心がけましょう。



まずは自分の強みをしっかり理解しよう!


「うちの組織に合うか?」価値観のカルチャーフィット
能力や経験と同様に、採用担当者が非常に重視するのが「カルチャーフィット」、つまり組織文化との相性です。
病院の理念や社風、働き方といった価値観と、候補者の仕事に対する価値観が合致しているかは、入社後のパフォーマンスや定着率に直結します。



前職ではこうやってました!
とか言って今の組織のやり方や価値観を無視して仕事する人っていますよね?
価値観のミスマッチは、本人のモチベーション低下だけでなく、チーム全体の生産性にも悪影響を及ぼしかねません。
病院のホームページや理念や取り組みを見て、その組織が大切にしている価値観を正しく理解し、それに共感していることを自身の言葉で示すことが求められます。
揺るぎない物語の土台を作る!理学療法士の志望動機を戦略的に作成


説得力のある志望動機は、書き始める前の周到な準備で9割が決まります。自分という商品を深く理解し、相手を徹底的に知ることが、揺るぎない物語の土台を築きます。
過去の経験を棚卸しする「戦略的自己分析」
魅力的な志望動機を作成するには、まず自分自身を深く理解することが不可欠です。
これまでのキャリアを振り返り、どのような経験を積み、どんなスキルを身につけてきたのかを客観的に整理しましょう。
例えば、担当した業務やプロジェクト、そこで直面した課題や成功体験などを具体的に書き出します。この「経験の棚卸し」を通じて、自身の強みや仕事における価値観、そして今後のキャリアで実現したいこと(就活の軸)が明確になります。
この自己分析こそが、あなただけのオリジナルな志望動機を生み出すための、最も重要な原材料となるのです。


応募先のインサイトを掴む「徹底的な研究」
自己分析と並行して行うべきなのが、応募先に対する深い理解、すなわち「応募先の研究」です。
この研究は公式ホームページの表面的な情報をなぞるだけでは不十分です。特に下記の情報などはしっかり見ておきましょう
- 病院の理念
- その病院が実施している研究(医中誌、PubMedなどで検索)
- 医療の質指標(Quality Indicator:QI)
- 独自の取り組み
特に「病院の理念」「その病院が実施している研究」「医療の質指標(Quality Indicator:QI)」などには、病院が目指す方向性や抱える課題が示されています。
また、可能であれば職員のインタビュー記事や口コミサイトにも目を通し、職場の雰囲気や働きがいといった「現場のリアル」を把握しましょう。
複数の病院と比較検討することで、その病院ならではの独自の強みや魅力が見えてくるはずです。この深い理解が、志望動機に説得力と具体性をもたらします。
あなたと病院の「接点」を見つけ、物語の核を作る
自己分析と応募先の研究という2つの準備が整ったら、次はその2つを繋ぎ合わせる作業です。
自己分析で見出した「自分の価値観・スキル・目標」と、応募先の研究で見つけた「病院の価値観・ニーズ・目標」との間に、どのような共通点や重なりがあるかを探します。
この「接点」こそが、あなたの志望動機における最も重要な核となります。



私のこの経験は、貴院のこの課題解決に活かせます!
といったように、自分と病院を結びつける具体的なポイントを発見することで、志望動機は単なる自己PRから、相互利益に基づいた「戦略的な提案」へと昇華するのです。
説得力が倍増する!心を動かす志望動機の書き方とフレームワーク


準備した材料を、論理的で心を動かす物語へと構築していきます。ここでは、誰でも実践できる2つの強力なフレームワークと、表現力を高めるテクニックを紹介します。
結論から伝える基本構成「PREP法」
志望動機を論理的で分かりやすく伝えるためには、「PREP法」という構成が非常に有効です。これは、Point(結論)、Reason(理由)、Example(具体例)、Point(結論)の頭文字を取ったもので、ビジネス文書の基本とも言える手法です。
たとえば急性期病院から回復期病院へ転職したい場合は以下のようになります。
まず最初に「貴院を志望する理由は〇〇です」と結論を明確に述べ、次にその理由を説明します。
そして、その理由を裏付ける具体的なエピソードを提示し、最後に「以上の理由から、私の経験を活かして貴院に貢献したい」と再び結論で締めくくります。この構成を用いることで、採用担当者はあなたの主張をスムーズに理解でき、記憶にも残りやすくなります。
急性期で培ったリスク管理能力とアセスメント能力を活かし、患者様の在宅復帰までを一貫して支援したいと考え、地域トップクラスの在宅復帰率を誇る貴院を志望いたしました。
現職の急性期病院では、発症直後の患者様への介入を通じて、早期離床や合併症予防の重要性を学んでまいりました。しかし、退院後の生活を見据えたリハビリテーションに、より深く、長期的に関わりたいという思いが強くなったためです。
以前、担当した脳梗塞の患者様が、意欲的にリハビリに取り組んでくださったものの、退院後の生活環境への適応に大きな不安を抱えておられました。その際、ご自宅の状況やご家族の介護力といった、より生活に密着した視点での関わりの重要性を痛感いたしました。
貴院が特に力を入れている多職種連携カンファレンスや家屋調査への同行などを通じて、患者様一人ひとりの『その人らしい生活』の実現に、より深く貢献できると確信しております。
これまでの急性期での経験に加え、貴院で在宅復帰支援の専門性を高めることで、患者様とご家族に心から寄り添い、質の高いリハビリテーションを提供して貴院に貢献していきたいと考えております。
過去・現在・未来を繋ぐ「キャリアナラティブ」
PREP法をさらに発展させ、より豊かな物語性を加えるのが「キャリアナラティブ」という考え方です。これは、あなたのキャリアを一つの完結した物語として描き出す手法です。
まず、あなたが理学療法士を目指した「原点・きっかけ」を語り、次にキャリアにおける重要な「転換点・成長」となった具体的なエピソードを提示します。
そして、その経験を通じて確立した「現在の価値(専門性)」を定義し、最後にその価値を応募先の「未来への接続」として結びつけます。
さっきの急性期病院から回復期への転職の場合は下記のようになります。
私の理学療法士としての物語は、「患者様の命を支え、一日でも早く危機的状況から脱するお手伝いをしたい」という想いから、急性期病院で始まりました。しかし、3年目に担当した一人の患者様との出会いが、私の物語の大きな転機となりました。
その方は、懸命なリハビリの末に無事退院されましたが、退院直前に「家に帰ってから、ちゃんと生活できるだろうか」と、深い不安を吐露されたのです。その時、私は「命を救う」ことだけでなく、その先にある「生活を取り戻し、その人らしい人生の物語を再び紡いでいく」過程にこそ、深く寄り添いたいのだと強く感じました。
この経験を通じて、私の中には「患者様が再びご自身の人生の主人公となる、そのクライマックスとも言える在宅復帰までの道のりに、伴走者として関わりたい」という確固たる価値観が生まれました。
だからこそ、地域でもトップクラスの在宅復帰率を誇り、多職種が一丸となって患者様の「生活」に徹底的に向き合う貴院で、私の物語の次の章を描きたいと強く願っています。急性期で培ったリスク管理能力という私の物語の前半部分を活かし、これからは貴院で「人生を支える」リハビリテーションを深く学び、実践することで、患者様一人ひとりの素晴らしい物語の再開に貢献できると確信しております。
「なぜその経験をしたのか」「なぜその物語の続きがこの会社でなければならないのか」という一貫したストーリーが、採用担当者の心を動かすのです。
【例文あり】ネガティブな転職理由をポジティブに転換する技術
転職理由と志望動機は表裏一体です。面接や履歴書で前職の不満を述べることは絶対に避けましょう。
重要なのは、ネガティブな「Push要因(押し出す力)」を、応募先に向かうポジティブな「Pull要因(引きつける力)」へと転換して語ることです。
例えば、「残業が多すぎた」という本音は、「より生産性の高い働き方を追求し、自己研鑽の時間も確保することで、中長期的に貴院へ貢献したい」という前向きな目標として再定義できます。
このように、満たされなかったニーズを次のキャリアで実現したい目標として語ることで、転職は「逃避」ではなく、主体的な「選択」として映り、志望動機に強い説得力を与えることができます。
ネガティブな本音 | 満たされなかったニーズ | ポジティブな言い換え |
---|---|---|
給料が安かった | 成果に対する正当な評価 | 「成果が正当に評価される環境で、自身の能力を最大限に発揮し、事業貢献へのモチベーションを高めたいと考えております。」 |
人間関係が悪かった | 協調性、チームでの成果創出 | 「個々の能力を結集し、チームとして相乗効果を生み出す働き方に魅力を感じています。協調性を重視する貴院の文化の中で、より大きな成果を追求したいです。」 |
残業が多すぎた | 業務効率の追求、自己投資時間の確保 | 「より生産性の高い働き方を追求し、限られた時間の中で最大の成果を出すことに挑戦したいです。創出された時間で自己研鑽に励み、中長期的により高いレベルで貴院に貢献できる人材になりたいと考えています。」 |
仕事が単調だった | 新たな挑戦、専門性の深化 | 「現職で培った〇〇の基礎を土台に、より専門性の高い△△の領域に挑戦したいと考えております。貴院が手掛ける□□の事業であれば、自身のスキルをより発展させ、新たな価値創造に貢献できると確信しています。」 |
成果を「数字」で語り、客観的な信頼性を与える


自身の経験や実績をアピールする際、「業務効率を改善しました」といった抽象的な表現では、そのインパクトが伝わりません。
ここで重要になるのが「価値の定量化」です。例えば、「新しいプロセスを導入し、月間の作業時間を30%削減しました」「チームリーダーとして5名の後輩指導を担当しました」のように、具体的な数字を用いて成果を示すことで、あなたの主張に客観的な信頼性と説得力が生まれます。
数字は、あなたがビジネスにとって重要な指標を意識し、具体的な成果を出せる人材であることを証明する最も強力な言語なのです。日頃から自身の業務成果を数値で記録しておく習慣が、転職活動を有利に進める鍵となります。
【ケース別】状況に応じた志望動機のカスタマイズ術


最後に、応募者の状況や応募先の施設形態に応じたカスタマイズのポイントと、避けるべきNG例を見ていきましょう。これらを参考に、あなただけの志望動機を完成させてください。
新卒・学生向け|ポテンシャルと将来性を伝える書き方
実務経験のない新卒や学生の場合、志望動機では「将来性」と「学習意欲」をアピールすることが重要です。
なぜPTを目指したのか、そのきっかけとなった具体的なエピソードを交えながら、仕事への熱意を伝えましょう。
さらに、「なぜこの病院で学びたい・働きたいのか」を明確にすることが不可欠です。
大学のカリキュラムや実習先、病院の理念や特色などを深く研究し、自分の目標とどう結びついているのかを具体的に述べます。
「貴院の〇〇という先進的なリハビリに魅力を感じ、専門性を高めたい」といったように、そこでなければならない理由を示すことで、志望度の高さとポテンシャルを効果的に伝えることができます。
施設・分野別(病院・クリニック等)のアピールポイント
理学療法士の働く場は多岐にわたるため、応募先の施設形態や分野の特性に合わせたアピールが求められます。
例えば、急性期病院では多職種と連携し、迅速な判断を下すチーム医療への貢献意欲が重要視されます。一方、クリニックであれば、整形外科やスポーツリハビリといった特定の専門分野への深い知識や経験が強みとなるでしょう。また、訪問リハビリや介護施設では、利用者様の生活に寄り添うコミュニケーション能力や、その人らしい生活を支えたいという想いが評価されます。
応募先の役割や機能を正しく理解し、自分の強みがその場でどう活かせるのかを的確に結びつけることが、採用を勝ち取る鍵です。
未経験・異分野への挑戦でアピールすべきこと
異業種から未経験で理学療法士を目指す場合や、異なる分野へキャリアチェンジを図る際には、直接的な経験不足を補う戦略が必要です。
採用担当者は「高い学習意欲」「環境適応力」そして「ポータブルスキル」に注目します。
ポータブルスキルとは、前職で培った課題解決能力、対人コミュニケーション能力、プロジェクト管理能力など、業種や職種を問わず通用する能力のことです。
これらのスキルが、理学療法士の業務でどのように活かせるのかを具体的に「翻訳」して提示しましょう。加えて、資格取得に向けた勉強を既に始めているなど、能動的な学習意欲を証明することで、熱意とポテンシャルを強く印象づけることができます。
これだけは避けたい!評価を下げる典型的なNG例
どんなに準備を重ねても、表現一つで評価を大きく下げてしまうことがあります。
例えば、「貴院の理念に共感しました」という抽象的な表現は、具体性がなく誰にでも言えるため評価されません。理念のどの部分に、自身のどんな経験から共感したのかを語る必要があります。
また、「成長したい」「学ばせていただきたい」といった受け身の姿勢も禁物です。職場は学校ではありません。
成長意欲は、あくまで「職場に貢献するため」の手段として語るべきです。
給与や待遇面ばかりを強調したり、応募先の業務内容と無関係な自己PRをしたりすることも、もちろんNGです。これらの典型的な失敗を避け、最後まで気を抜かずに志望動機を完成させましょう。
まとめ


理学療法士の転職成功の鍵は、単なる熱意のアピールではなく、戦略的な志望動機にあります。
本記事で解説したように、まずは採用担当者の視点を理解し、徹底した自己分析と応募先の研究で土台を固めることが不可欠です。
その上で、あなたの経験と応募先のニーズを論理的に結びつけ、「ここで働きたい」という想いをあなただけの物語として伝えてください。この記事で紹介したポイントが、あなたの価値を最大限にアピールし、希望のキャリアを掴むための一歩となることを祈っています。