本記事は、病院勤務の理学療法士が、給与の頭打ちと将来への経済的な不安をきっかけに、「自費リハビリ」という新たな分野へ挑戦した体験談です。
安定した職を離れ、経営と高度な専門技術を学ぶ中で直面した困難や試行錯誤の日々、そしてそれらを乗り越え、最終的に年収1.5倍と理学療法士としての大きなやりがいを手に入れるまでの軌跡を綴ります。
キャリアに悩むすべての理学療法士、そして専門職の方々へ、自らの手で未来を切り拓くための一歩を踏み出す勇気とヒントを提供します。
本記事では、個人や施設の特定を避けるために創作を交えています。
『このままじゃ将来が不安…』給料アップを目指し自費リハビリへ!経営と技術を学び、年収1.5倍を実現した挑戦

見えない天井―やりがいと裏腹に募る経済的な不安
「理学療法士の仕事は、心から好きだ」
これは、病院で10年以上勤務してきた私が、常に感じていたことです。患者様が回復していく姿を間近で見られること、自分の知識や技術が誰かの人生を支えているという実感は、何にも代えがたいやりがいでした。
しかし、勤続年数が10年を超え、中堅からベテランと呼ばれる立場になっても、給与明細の数字は大きく変わることはありませんでした。
ふと、子供の将来の教育費や、まだ残っている住宅ローンのことを考えると、漠然とした、しかし確かな不安が胸をよぎるのです。
医療保険制度の下で働く理学療法士の給与には、見えない天井が存在します。
どれだけ経験を積んでも、どれだけ患者様から感謝されても、それが大幅な収入アップに直結することは難しいのが現実です。
同年代で異業種に転職した友人が、成果に応じた報酬を得て活躍している話を聞くたびに、自分の「市場価値」とは一体何なのだろうか、と自問自答する日々が続きました。
この仕事への誇りと、将来への経済的な不安との間で、私の心は揺れ動いていました。
理想の医療を追求できないジレンマ
経済的な不安に加えて、もう一つ大きな葛藤がありました。
それは、保険診療の枠組みの中で、必ずしも自分が理想とするリハビリテーションを提供できないというジレンマです。
保険診療では、1人の患者様にかけられる時間やリハビリの内容に制限があります。
例えば、「もう少し時間をかけて筋膜の調整を行えば、もっと痛みが和らぐはずだ」「この方には、生活背景を深くヒアリングした上で、心理的なアプローチも組み合わせた方が効果的だ」と感じても、制度の壁に阻まれてしまうのです。
「本当に利用者さんのためになると思ったことを、とことん追求したい」。
この思いは、年々強くなるばかりでした。
もちろん、病院でのリハビリが価値のないものだと言うつもりは全くありません。限られた条件下で最大限の効果を出すために、多くの同僚が日々研鑽を積んでいます。
しかし私個人としては、「もっとできることがあるはずだ」という思いが、キャリアを見つめ直す大きなきっかけとなったのです。
現状の安定に甘んじるのか、それとも理想を追求するためにリスクを取るのか。その答えを探す日々が始まりました。
新たな可能性との出会い―「自費リハビリ」という道

検索窓から見えた、新しい理学療法士のカタチ
現状を打破したい一心で、私は夜な夜なパソコンに向かうようになりました。
「理学療法士高収入」「理学療法士キャリアアップ」といったキーワードで、ひたすら情報を集める毎日。
その中で、私の目に飛び込んできたのが「自費リハビリ」という言葉でした。これは、医療保険を使わずに、全額自己負担でリハビリテーションを提供するサービスのことです。
最初は「保険が使えないなんて、利用する人がいるのだろうか?」と半信半疑でした。
しかし、成功事例を調べていくうちに、その認識は大きく変わります。そこには、保険診療の枠にとらわれず、利用者一人ひとりのニーズに徹底的に向き合い、質の高いサービスを提供することで、高い満足度と適正な対価を得ている理学療法士たちの姿がありました。
自分の技術と知識がダイレクトに評価され、結果を出せばそれに見合った収入が得られる。
それは、私が見えない天井を感じていた病院での働き方とは、全く異なる世界でした。「これかもしれない…」。暗闇の中に、一筋の光が見えた瞬間でした。
必須スキルは「技術+経営」―自己投資の始まり
自費リハビリの世界に強く惹かれる一方で、すぐに飛び込めるほど甘くないことも理解していました。
今のスキルだけでは全く通用しない。求められるのは、理学療法士としての高度な専門技術に加えて、「経営者」としての視点です。具体的には、以下のスキルセットが必要だと考えました。
私はまず、自分の現状を可視化するために、下のような簡単なスキルマップを作成し、現状の自分(In)と目標(Out)を書き出しました。
スキル分類 | 現状(In) | 目標(Out) | 習得のためのアクション |
---|---|---|---|
専門技術 | 一般的な運動療法、物理療法 | 筋膜リリース、深層筋へのアプローチ | 週末開催の技術講習会に参加 |
経営知識 | ほぼゼロ | 事業計画、会計の基礎知識 | 経営学の入門書を読む、関連セミナーに参加 |
集客 | 経験なし | SNSでの情報発信、Webサイト作成 | マーケティング関連のオンライン講座を受講 |
この計画に基づき、私は週末や仕事後の時間を全て自己投資に充てました。
専門書を読み漁り、技術セミナーに参加し、経営に関するオンライン講座を受講する。大変ではありましたが、「自分の力で未来を切り拓く」という強い思いが、私を突き動かしていました。
未知への挑戦―安定からの脱却と試行錯誤

家族の不安と、それを乗り越えた「熱意」
知識と技術のインプットを進める中で、私の決意は固まっていきました。
そして一番の難関とも言える、家族への相談の日を迎えます。安定した病院を辞め、成功の保証などどこにもない自費リハビリの道に進みたい―。
私の言葉に、妻が不安そうな顔をしたのを今でも覚えています。
それは当然の反応でした。安定した収入を失うこと、もし失敗したら家族を路頭に迷わせてしまうかもしれないという恐怖。
しかし、私はただ「やりたい」というだけでなく、なぜやりたいのか、そして成功するためにどのような計画を立てているのかを、時間をかけて丁寧に説明しました。
作成した事業計画書や収支シミュレーションの図表を見せながら、この挑戦が単なる夢物語ではなく、勝算のあるものであることを伝えました。
何よりも、「理学療法士として、もっと人の役に立ちたい」「家族をもっと楽にさせたい」という私の純粋な熱意が、最終的に家族の心を動かしてくれたのだと思います。「あなたの熱意と具体的な計画を聞いて、応援したくなった」―その言葉に、私は涙が出るほど勇気づけられました。
開業初期の洗礼―「結果が全て」の世界
家族の応援を背に、私は長年勤めた病院を退職し、実績のある自費リハビリ施設に転職する道を選びました。
しかし、そこからの道は平坦ではありませんでした。最初の数ヶ月は、とにかく集客に苦労しました。
保険が効かない分、利用者のサービスを見る目は非常にシビアです。「1回の施術でどれだけ楽になるのか」「料金に見合う価値があるのか」。その期待値の高さに、毎日が真剣勝負でした。
思うように結果が出せず、次の予約に繋がらないこともありました。
病院時代には経験しなかった直接的で厳しい評価に、心が折れそうになったことも一度や二度ではありません。
集客のために、慣れないSNSでの情報発信を始めたり、地域のスポーツイベントにブースを出展して無料体験会を実施したりと、文字通り試行錯誤の毎日でした。
この時期は、肉体的にも精神的にも最も厳しい期間でしたが、「ここで諦めるわけにはいかない」と自分を奮い立たせ、目の前の一人ひとりの利用者に全力を尽くすことだけを考えていました。
技術と経営の両輪―成功への軌跡と掴んだ未来

「あなただから」―信頼が生んだ好循環
苦しい時期を乗り越える転機となったのは、地道に続けてきた「利用者一人ひとりへの真摯な向き合い」でした。
自費リハビリの強みは、時間をかけて丁寧に対応できることです。私は、利用者の身体的な問題だけでなく、その背景にある生活習慣や精神的な悩みにも深く耳を傾け、その人だけのオーダーメイドのプログラムを提供することを徹底しました。
目標達成に向けて、二人三脚で伴走する―。その姿勢が、少しずつ利用者との間に揺るぎない信頼関係を築いていったのです。

先生のおかげで、諦めていた趣味の登山を再開できたんです



長年の痛みが嘘のようです。ここに来て本当に良かった
やがて、といった心からの感謝の言葉をいただく機会が増えていきました。
そして、そうした方々が、また別の方を紹介してくださるという、理想的な好循環が生まれたのです。この頃から、私は顧客満足度やリピート率、紹介率などを簡単なグラフにして分析するようになりました。
数字として成果が可視化されることで、自分のアプローチが間違っていなかったという確信と、次へのモチベーションに繋がりました。きめ細やかなサービスと高い技術、そして何より利用者との信頼関係こそが、成功への両輪なのだと実感しました。
年収1.5倍と、手に入れた本当の豊かさ
利用者の満足度が向上し、口コミで評判が広がるにつれて、経営は安定軌道に乗りました。
気づけば、施設の経営状況を確認するたびに、自然と笑みがこぼれるようになっていました。
以前の病院勤務時代と比べて、年収は1.5倍以上にアップしていたのです。経済的な不安から解放されたことは、私の心に大きな余裕をもたらしました。
しかし、手に入れたのはお金だけではありません。むしろ、それ以上に大きな価値があったのは、精神的な豊かさと時間の自由でした。
病院時代は日々の業務に追われがちでしたが、今は自分の裁量でスケジュールを組めるため、家族と過ごす時間が格段に増えました。
そして何より、「自分の追求したい医療をとことん実践し、それが利用者の最高の笑顔に繋がる」という、理学療法士としての根源的なやりがいを、かつてないほど強く感じています。
挑戦の末に私が掴んだのは、単なる高収入ではなく、仕事の誇りとプライベートの充実が両立した、真に豊かな人生でした。
未来を切り拓く―次の一歩を踏み出すあなたへ


あなたの「市場価値」を可視化しよう
もし、あなたが今の働き方に疑問や不安を感じているのなら、まずはご自身の「市場価値」を客観的に見つめ直すことから始めてみてください。
私自身もそうでしたが、同じ環境に長くいると、自分の持っているスキルや経験の価値を正しく認識できなくなってしまうことがあります。
ぜひ、一度時間を取って、キャリアの棚卸しをしてみてください。例えば、以下のような項目を書き出す「キャリアプランニングシート」を作成することをお勧めします。
項目 | 内容 |
---|---|
得意な技術・分野 | (例:運動器疾患、スポーツリハビリ、脳血管疾患後のリハビリなど) |
実績・成功体験 | (例:担当した患者様の改善事例、後輩指導の経験、院内での勉強会発表など) |
保有資格・受講歴 | (例:認定理学療法士、専門的な手技の講習会修了証など) |
伸ばしたいスキル | (例:経営知識、マーケティング、特定の専門技術など) |
理想の働き方 | (例:収入、勤務時間、やりがい、裁量権など) |
理想実現のための障壁 | (例:知識不足、資金、家族の理解など) |
このように自分の現状と理想、そしてその間にあるギャップを書き出すことで、今何をすべきかが見えてきます。
あなたの専門技術や経験は、今の職場の中だけでなく、外の世界でも必ず価値を持ちます。その価値を正しく認識することが、新たな一歩を踏み出すための羅針盤となるはずです。


挑戦する勇気が、想像以上の未来を創る
私の経験から断言できるのは、「理学療法士の可能性は、保険診療の中だけにとどまらない」ということです。
私たちの持つ専門知識や技術は、もっと自由な発想で、もっと多様な形で社会に貢献できるポテンシャルを秘めています。自費リハビリはその一つに過ぎず、他にも予防分野、健康増進、企業向けコンサルティングなど、活躍の場は無限に広がっています。
もちろん、新たな分野への挑戦には勇気がいります。安定を手放す恐怖や、失敗するリスクも伴います。
しかし、もしあなたが現状に満足していないのなら、その気持ちに蓋をしないでください。
情報収集をする、セミナーに参加してみる、副業から小さく始めてみる。どんなに小さな一歩でも構いません。行動を起こすことでしか、見える景色は変わらないのです。
私の挑戦が、同じように悩む理学療法士の皆さん、そしてキャリアに悩む全ての専門職の方々にとって、少しでも背中を押す材料になれば幸いです。挑戦する勇気を持てば、きっとあなたが想像する以上の未来が待っているはずです。あなたの専門技術が、社会で新たな価値を創造することを、心から応援しています。