【転職体験談】「無理だ」と言われた夢への挑戦！スポーツPTとしてトップアスリートを支える日まで

この記事は、ごく普通の病院に勤務していた一人の理学療法士が、「スポーツの世界でトップアスリートを支えたい」という、周囲からは「無理だ」と諭された夢を追いかけ、数々の困難を乗り越えながらスポーツ整形外科クリニックへの転職、トレーナー活動、専門知識の習得に励み、ついにプロスポーツチームの理学療法士（スポーツPT）としてトップアスリートを支えるという夢を叶えるまでの軌跡を綴った体験談です。スポーツきっかけで理学療法士の道に進んだ人も多いのではないでしょうか？

夢へのロードマップ作成や情報収集の具体的な方法、モチベーション維持の秘訣などを交え、転職やキャリアチェンジに悩む方々へ、諦めずに挑戦することの価値と、夢を実現するためのヒントをお届けします。

はじめに – 無謀な夢だと笑われた、あの日の僕

「トップアスリートを支えるスポーツPTになりたいんです！」 数年前、職場の先輩に意気揚々と夢を語った僕に返ってきたのは、苦笑いと「まあ、頑張れよ。でも、現実は厳しいぞ」という言葉だった。僕、佐伯 海斗（さえき かいと）は、当時、地域の中規模な一般病院に勤務するごく普通の理学療法士だった。毎日、多くの患者さんのリハビリに携わる中で、確かなやりがいは感じていた。しかし、心の奥底には、幼い頃から憧れていたスポーツの世界への熱い想いがずっと燻っていた。

一般病院でのリハビリと、胸に燻るスポーツへの情熱

僕が理学療法士を目指した原点は、高校時代に打ち込んでいたサッカーでの怪我だった。絶望の淵にいた僕を救ってくれたのは、一人の理学療法士の先生。その先生の的確なリハビリと温かい励ましのおかげで、僕は再びピッチに立つことができた。その経験から、「今度は自分が、怪我で苦しむアスリートを支えたい」と強く思うようになった。

しかし、新卒で入職した病院は、高齢者のリハビリが中心。スポーツ選手が来ることは稀だった。日々の業務に追われながらも、週末にはスポーツ医学のセミナーに参加したり、専門書を読み漁ったりしていたが、それはあくまで趣味の延長線上。現実は、スポーツとは程遠い場所にいる自分。そのギャップが、僕を焦らせ、そして夢への渇望を強くさせていった。

「スポーツPTなんて狭き門だ」周囲の冷めた声と揺れる心

「スポーツPTなんて、ほんの一握りの人間しかなれない」「実績もコネもないお前には無理だ」「もっと現実を見ろよ」。僕の夢を口にするたび、同僚や先輩たちからは、そんな言葉が返ってきた。彼らが悪気がないことは分かっていた。むしろ、僕のことを心配してくれているのだろう。スポーツPT、特にプロチームやトップアスリートに関わるポジションは、求人も少なく、経験や専門性が高度に求められる、まさに狭き門だ。

その言葉を聞くたび、僕の心は大きく揺らいだ。「やっぱり、自分には無理なのかもしれない…」。そう諦めかけそうになる夜もあった。しかし、テレビで見るアスリートたちの輝きや、怪我から復帰し活躍する姿を見るたび、心の炎は再び燃え上がるのだった。「いや、まだ何も挑戦していないじゃないか」。僕は、この「無理だ」という言葉を覆してやると、固く心に誓った。

夢への第一歩 – 無知からの情報収集と戦略立案

「無理だ」と言われるのは、具体的な道筋が見えていないからかもしれない。ならば、まずその道筋を明らかにすることから始めよう。僕は、無知な状態から、スポーツPTになるための情報収集と戦略立案に着手した。

「何が必要なんだ？」スポーツPTになるための徹底リサーチ

まず、インターネットで「スポーツ理学療法士 なるには」「スポーツPT 求人」「アスリート 支援 理学療法士」といったキーワードで徹底的に検索した。スポーツ医学系の学会のホームページ、現役スポーツPTのインタビュー記事、求人情報サイトなどを隅々まで読み込んだ。

これらの情報を集める中で、自分が今どの位置にいて、何が足りないのかが少しずつ明確になっていった。道は遠く険しいが、全く見えないわけではない。そう思えただけで、少し勇気が湧いてきた。

夢へのロードマップ作成 – 長期目標と短期目標の設定

集めた情報を元に、僕は夢へのロードマップを作成することにした。最終目標は「トップアスリートをサポートするスポーツPTになること」。しかし、それだけでは漠然としている。そこで、長期目標を達成するために、いくつかの短期・中期目標を設定し、それらを時系列で整理することにした。

このロードマップ作成には、表計算ソフト（例：Microsoft ExcelやGoogleスプレッドシート）を活用した。

フェーズ	期間(目安)	中期目標	短期目標（アクションプラン）	達成指標/メモ
フェーズ1	1～2年	スポーツ整形外科クリニックへの転職	臨床経験3年以上積む、求人情報収集、履歴書・職務経歴書ブラッシュアップ、面接対策	〇〇クリニック内定
フェーズ2	2～3年	専門知識・技術の習得とトレーナー経験	専門資格(JSPO-AT検討)、スポーツ系勉強会・研修参加、アマチュアチームでのトレーナー活動開始、英語学習	資格取得、年間〇〇時間のトレーナー活動、TOEIC〇〇点
フェーズ3	3～5年	スポーツチームへのアプローチ	学会発表、人脈構築、プロチームの求人情報チェック、インターンシップ模索	〇〇チームへの所属
最終目標	5年～	トップアスリートを支えるスポーツPTになる	国際大会帯同、日本代表チーム帯同など

このように、目標を細分化し、具体的なアクションプランと期限（目安）を設定することで、今何をすべきかが明確になった。これは、まさにプロジェクト管理の考え方だ。コードを書くような専門知識は不要だが、情報を整理し、計画を可視化するスキルは、夢の実現を加速させる上で非常に有効だと感じた。

茨の道と小さな光 – 経験を積むための転職と学びの日々

ロードマップはできた。しかし、それはあくまで計画。実行しなければ何も変わらない。僕は、まず最初の目標である「スポーツ整形外科クリニックへの転職」に向けて動き出した。

スポーツ整形外科クリニックへの転職 – 憧れの分野への第一歩

一般病院での臨床経験は3年を超えていたが、スポーツ疾患の経験は乏しい。正直、不安は大きかった。しかし、ここで躊躇していては何も始まらない。履歴書と職務経歴書にスポーツ分野への熱意をこれでもかと盛り込み、いくつかのスポーツ整形外科クリニックに応募した。幸運にも、あるクリニックが僕の熱意を買ってくれ、採用が決まった。

そこでは、部活動に励む学生から、趣味でスポーツを楽しむ社会人、そしてプロを目指すアスリートまで、多種多様な患者さんが訪れた。捻挫、肉離れ、靭帯損傷、野球肘、テニス肘…。毎日が新たな学びの連続だった。院長先生はスポーツ医学の専門医で、多くのことを教えてくださった。ここで初めて、スポーツ現場に近いリハビリテーションの実際を肌で感じることができた。

週末はトレーナー活動へ – 無給でも積み重ねた現場経験

クリニックでの仕事に慣れてきた頃、僕はロードマップの次のステップとして、週末を利用してアマチュアのサッカーチームでトレーナー活動を始めた。最初は知人の紹介で、もちろん無給のボランティアだ。テーピングの巻き方一つとっても、教科書通りにはいかない。試合中の突発的な怪我への対応、ウォーミングアップやクールダウンの指導、選手のコンディション管理など、クリニック内だけでは得られない貴重な経験を積むことができた。

最初は選手たちも「病院の先生が何しに来たんだ？」と怪訝な顔をしていたが、真摯に向き合い、彼らの痛みを理解しようと努めるうちに、少しずつ信頼関係が生まれていった。「佐伯さんのおかげで、今日の試合も全力でプレーできました！」そんな言葉が、何よりの報酬だった。

専門知識の習得 – 論文講読と海外情報のキャッチアップ

スポーツ医学の世界は日進月歩だ。最新の知識を常にアップデートし続けなければ、質の高いリハビリテーションは提供できない。僕は、英語の医学論文を読むことを日課にした。初めは専門用語の壁に苦労したが、文献管理ソフト（Paperpile）を使い、気になる論文を整理し、翻訳ツールや辞書アプリを駆使しながら、少しずつ読解スピードを上げていった。

特に、エビデンスレベルの高いシステマティックレビューやランダム化比較試験（RCT）を中心に読み込み、得られた知見を臨床に活かすことを意識した。また、海外の著名なスポーツPTや研究者のSNSをフォローし、最新のトレンドや考え方に触れるよう努めた。こうした地道な努力が、後のキャリアに繋がる専門性を形作っていったと信じている。

転機 – チャンスを掴むための準備と行動

クリニックでの勤務とトレーナー活動、そして自己学習を続けること数年。少しずつだが、着実にスポーツPTとしての実力と経験が身についてきている実感があった。そんなある日、千載一遇のチャンスが舞い込んできた。

あるトップチームからの公募 – 千載一遇のチャンス到来

それは、国内トップリーグに所属するプロサッカーチームの理学療法士の公募だった。求人サイトで見つけた瞬間、心臓が大きく高鳴った。「これだ…！」しかし、同時に不安も押し寄せる。応募資格には「プロチームでの実務経験尚可」とある。僕にはプロチームでの経験はない。それでも、僕は挑戦することを選んだ。ダメで元々だ。このチャンスを逃したら、きっと後悔する。

ロードマップを見返し、これまでの経験と習得した知識・技術を全て棚卸しした。履歴書と職務経歴書は、一字一句に魂を込めて作成した。特に、トレーナー活動での具体的なエピソードや、クリニックでの症例報告、そしてスポーツ医学に関する自身の考えを詳細に記述した。

プレゼンテーションと実技試験 – 知識と情熱をぶつけた日

書類選考を通過し、面接と実技試験の連絡が来た時は、嬉しさよりも緊張が勝った。面接では、これまでの経験に加え、「なぜこのチームで働きたいのか」「自分ならチームにどう貢献できるのか」という熱い想いを伝えた。

プレゼンテーションでは、「特定のスポーツ傷害（例：ハムストリングスの肉離れ）に対する最新の予防戦略とリハビリテーションプロトコル」というテーマで発表した。ここでは、PowerPointやGoogleスライドなどのプレゼンテーションソフトを駆使し、グラフや図を多用して視覚的に分かりやすく説明することを心がけた。例えば、傷害発生率の推移を示す棒グラフや、リハビリの段階的進行を示すフローチャートなどを盛り込み、自身の考察やエビデンスに基づいた提案を行った。実技試験では、模擬的な傷害評価やアスリハ（アスレティックリハビリテーション：スポーツ復帰を目指すリハビリ）の指導を行った。持てる知識と技術、そして何よりも情熱を、全てぶつけた。

夢の舞台へ – トップアスリートを支えるスポーツPTとして

数日後、僕のスマートフォンが震えた。画面には、見慣れない番号。「まさか…」。震える手で電話に出ると、それは採用決定の連絡だった。あの瞬間、僕は言葉にならない感情でいっぱいになり、ただただ涙が溢れた。「無理だ」と言われた夢が、現実になった瞬間だった。

プロの世界の厳しさと、最高のやりがい

プロチームでの仕事は、想像以上に過酷で、そして刺激的だった。シーズン中はほぼ休みなく、遠征にも帯同する。選手のコンディションは常にミリ単位で管理され、一つの判断がチームの勝敗や選手のキャリアを左右することもある。プレッシャーは計り知れない。

しかし、それ以上に、最高のやりがいがある。怪我で苦しんでいた選手が、自分のリハビリを経て再びピッチに立ち、最高のパフォーマンスを発揮する。チームが勝利し、選手やサポーターと共に喜びを分かち合う。そんな瞬間に立ち会えることは、何物にも代えがたい喜びだ。選手の夢を、一番近くでサポートできる。これこそが、僕が本当にやりたかったことなんだと、日々実感している。

アスリートのパフォーマンスを最大化する – データ分析と個別化アプローチ

トップアスリートのサポートには、科学的な根拠に基づいたアプローチが不可欠だ。僕は、選手のコンディションデータ（睡眠時間、心拍変動、トレーニング負荷など）や、傷害発生状況、リハビリの進捗などをデータベースで管理し、定期的に分析している。例えば、特定のトレーニング後に傷害発生リスクが高まる傾向がないか、個々の選手のリハビリ期間は平均と比較してどうか、などをグラフ化してチーム内で共有し、改善策を検討する。

また、選手の動作分析も重要な業務の一つだ。高速度カメラで撮影した映像を解析ソフトで分析し、パフォーマンス向上や傷害予防に繋がるフィードバックを行う。こうしたデータと自身の臨床経験を組み合わせ、一人ひとりの選手に合わせたオーダーメイドのコンディショニングプログラムやリハビリ計画を作成している。コードを書くような高度なプログラミングはできなくても、データを収集・分析し、それを基に仮説検証を繰り返すという科学的思考は、スポーツPTにとって非常に重要なスキルだと感じている。

「無理だ」を「できる」に変えるために – 転職・挑戦を考えるあなたへ

振り返れば、僕の挑戦は「無理だ」という言葉との戦いだった。もし、今あなたが何かに挑戦しようとしていたり、転職を考えていたりするなら、僕の経験から伝えたいことがある。

自分を信じ抜く力と、諦めない心

「無理だ」と言うのは簡単だ。そして、その言葉に流されてしまうのも簡単だ。でも、本当にそうだろうか？挑戦する前から諦めてしまっては、何も始まらない。大切なのは、まず自分自身が「できる」と信じること。そして、どんなに困難な壁にぶつかっても、簡単には諦めない心を持つことだ。

もちろん、精神論だけではダメだ。その「信じる力」を支えるのは、具体的な行動と努力の積み重ね。僕も、何度も心が折れそうになった。でも、そのたびにロードマップを見返し、「今できることは何か？」と自問自答し、小さな一歩でも前に進むことを心がけた。

小さな成功体験を積み重ねる重要性

大きな夢を追いかける時、その道のりは長く、ゴールが遠く感じてしまうことがある。そんな時、モチベーションを維持するためには、小さな成功体験を積み重ねることが非常に重要だ。

僕の場合、「スポーツ整形外科クリニックに転職できたこと」「初めてトレーナーとして試合に帯同したこと」「英語の論文がスラスラ読めるようになったこと」「学会で発表できたこと」など、一つ一つの小さな目標達成が、次のステップへ進むための自信とエネルギーになった。どんなに小さなことでも良い。目標を立て、それをクリアする。その繰り返しが、やがて大きな力となる。

夢を語り、仲間を見つけること

かつて僕は、夢を語ることを恐れていた。周囲の冷めた反応が怖かったからだ。しかし、本気で夢を追いかけ始めると、不思議と同じ志を持つ仲間や、応援してくれる人が現れる。

勉強会で出会った仲間、トレーナー活動で知り合った指導者、そして何より、僕の挑戦を温かく見守ってくれた家族や友人。彼らの存在が、どれほど僕の支えになったか分からない。夢を語り、共感してくれる仲間を見つけること。それは、困難な道を歩む上で、何よりも強い推進力になる。

おわりに – 次の夢に向かって

「無理だ」と言われた日から、長い年月が経った。今、僕は夢だった場所で、トップアスリートたちと共に戦っている。それは決して平坦な道のりではなかったが、諦めずに挑戦し続けて本当に良かったと、心から思う。

もちろん、ここがゴールではない。スポーツPTとして、まだまだ学ぶべきことは山ほどある。そして、いつかは僕自身が、かつての僕のような若者の夢を後押しできるような存在になりたい。それが、今の僕の新たな夢だ。

この記事が、かつての僕のように「無理だ」という言葉に立ちすくんでいる誰かの背中を、少しでも押すことができたなら、こんなに嬉しいことはない。 あなたの挑戦を、心から応援しています。